日本会議の機関誌『日本の息吹』4月号に、
国会の全党派による全体会議で検討対象とされている
旧宮家系子孫男性の養子縁組プランについて、
懸命な弁護論が掲載されている
(新田均氏「占領下における皇籍離脱と養子案よる
皇籍復帰について」
※タイトルに皇籍“復帰”とあるが正しくは皇籍“取得”)。しかし、残念ながら説得力がない。
弁護その1。
皇位継承の男系限定は「女性差別」だと言われるが、そうではない。
→「現在、世界の人口は約81億人強だが、男性はその半分強、
女性は半分弱である。
その40億強の男性の中で、日本の天皇になれる伸ばし
僅かに3人、皇統に属する秋篠宮殿下、悠仁殿下、
常陸宮殿下だけだ。
皇統に属さないその他の男性にとって、
男系継承は特権でも何でもない。
それどころか、男性はたとえ日本人であっても、
皇族になれない。天皇の父になれず、摂政にもなれない。ところが、全女性は、国籍に関係なく、
結婚によって皇族になれる。
天皇の母になれ、場合によっては摂政にもなれる。
この事実に照らせば、皇位の男系継承によって差別され、
排除されているのは男性の方である。
女性はむしろ尊重され、歓迎されている。
そして、皇位の男系継承は一般女性の社会的地位と何の関係もない」天皇皇后両陛下にお子さまがおられる。
しかし、単に“女性だから”というだけ(!)の理由で
皇位継承のラインから除外される。
これが女性差別でなくて一体何なのか。内親王·女王は全て皇位継承のラインから除外されている。
なので、国民男性とのご結婚と共に皇族の身分を失う。
その結果、「男性は、たとえ日本人であっても…」という
事態を招いている。「差別され、排除されているのはむしろ男性の方である」
というのは、その原因と結果の関係を完全に見誤った、
逆立ちした理解以外の何ものでもない。だから、“原因”である皇位の安定的な継承を阻害している
「女性差別」を解消すれば、“結果”としてここで言われている
男性への“差別(?)”や“排除(?)”なども、
直ちに雲散霧消する。皇位継承における女性皇族の排除は、
一般女性の社会的地位の反映であり、又その排除の事実が
一般女性の社会的地位に暗い影を落とす。弁護その2。
旧宮家プランは憲法が禁じている「門地による差別」に当たらない。
→「これについては、すでに内閣法制局の見解が示されている。
それは、憲法が『世襲』と規定している天皇、皇族
(※原文のママ)の継承は、『平等原則』の例外であり、
その皇位継承権の範囲は法律に委ねられているため、
特例法を制定して養子の範囲を旧宮家に限っても
憲法違反とはならない、というものである」憲法の「国民平等」の原則の例外は、皇統譜に登録される
皇室の方々(天皇·上皇及びその他の皇族)に限られる。
一方、旧宮家系子孫男性は勿論、戸籍に登録された国民だ。
よって、「国民平等」原則の例外にはなり得ない。当たり前ながら、皇位継承資格を持つ皇族の範囲は
法律(皇室典範)マターであっても、国会が違憲の法律を
作ることは許されない。そもそも、憲法が要請する「世襲」には男性·女性、
男系·女系が全て含まれるというのが、
これまでの政府見解であり学界の通説だ。
よって、世襲要請に応える為には、まず皇位継承の不安定化を
招いている皇室典範の「男系男子」の縛りを解除することが先決だ。
それに手を着けないで、「国民平等」原則を損なう
制度改正に踏み出すのは、憲法違反を免れない。弁護その3。
直系優先の原則なんて存在しない。
→「皇室系図を見れば一目瞭然だが、直系原則は早くも
第13代成務天皇から第14代仲哀天皇への叔父から甥への
継承で崩れてしまい、今上陛下のまで126代の内、
55代が傍系継承なので、とても原則とは言えない」“原則”の意味が分かっていないようだ。
原則とは、特別な場合は別として、一般に適用されるべきルールだ。だから、原則に当てはまらないケースがあることと、
その原則そのものが存在しないこととは、直結しない。
明治の皇室典範も、現在の皇室典範も共に、
皇位継承順序において「直系優先」ルールを堅持している。
皇族の身分(親王·内親王、王·女王)自体が天皇からの
血縁の近さ(直系原則)で決められる
(これは古代の大宝·養老律令でも同じ)。そもそも、「世襲」自体が“親から子”への直系継承を軸とした概念だ。
なお念の為に付言すれば、「皇室系図」の古い時代の部分は、
どの辺りから実態を正確に反映しているかについて、
丁寧な吟味を必要とする
(記紀に描かれた成務天皇や仲哀天皇の頃の
系譜をそのまま史実と見る歴史学者はいないだろう)。弁護その4。
側室制度が無くても男系継承は維持できる。
→「かつて側室制度が必要だったのは、
乳幼児の死亡率が高かったためで、現代医学の下では必要ない。
事実、初代の神武天皇から今上陛下まで…側室を除いて、
正妻お一人からだけでも168人の男子が誕生している。
…歴代天皇の数を上回る男子が誕生しているのだから、
あと3つほどの宮家でもあれば、現代医学では十分だろう」しかし、目の前の晩婚化·少子化の厳しい現実から
目を逸らして過去の話を持ち出しても、全く無意味だ。
これで一発アウト。それでも、この現実逃避的な弁護論を敢えて吟味すると、どうか。
そもそも「あと3つほどの宮家でもあれば」と言っても、
その宮家をどのようにして確保するつもりか。旧宮家関係者からは、これまで
(無責任な匿名の伝聞情報などは別にして)後ろ向きな
コメントしか出されていない。
故·安倍晋三元首相すら「該当者はいない」と語っていた。旧宮家系の内情をある程度は知っていると思われる
竹田恒泰氏は、本人が物心つく前の
「赤子のうちに縁組を行うこと」のが「ベスト」と言っている。
これは常識的に考えると、ほとんど「赤子」しか
養子縁組を受け入れる該当者が見付からないことを
意味しているのではないか。過去の4世襲親王家(伏見宮·有栖川宮·閑院宮·桂宮の諸家)
の実例を見ると、正妻の半数以上(54.3%)は
男子に恵まれていない。
現に側室が認められた時代でも、
4宮家の内、伏見宮家以外は全て廃絶している。天皇についても、史実性に配慮して調べると
3分の1以上(35.4%)は、そもそも男子が生まれていなかった。
何代にもわたって正妻に男子が不在だった時期も複数ある。
単純に、正妻から生まれた男子の数だけを数えても、
実情は見えて来ない。しかも現代は、先に述べた通り、そうした時代と比べて、
遥かに困難な状況にある。弁護その5。
旧宮家系子孫は血筋が離れすぎていると言うが、
占領下の理不尽な皇籍離脱さえなければ、そんな議論は出てこなかった。
→「旧皇族は敗戦まで皇位継承権を保持していた。
敗戦後もこの方々が皇族に留まって居たら、
血筋が遠すぎるなどという議論は起こらない」明治の皇室典範で歴史上初めて、血筋が遠くても
皇族の身分を保持し続ける「永世皇族制」が、
それを疑問視する声もある中で、採用された。
だが、早くから見直しの動きがあった。血縁が遠い皇族の数が増え過ぎると、
財政上の問題だけでなく、失礼ながら品位や自覚の点で、
むしろ皇室の尊厳を損ないかねないケースが現れるからだ
(実際にそうした事態も起きている)。その結果、皇室典範·増補第1条では
男性皇族(王)の臣籍降下について規定した。
同第6条では一旦、臣籍降下した者は再び皇籍に
戻ることを認めない(!)、とも規定した(明治40年)。更に「皇族の降下に関する準則」によって、
血筋が離れた皇族が臣籍降下するための基準が、定められた(大正9年)。その基準に照らすと、占領行政に関わりなく、
現在、養子縁組の対象とされている旧宮家系子孫男性らは、
(伏見宮邦家親王から5世以上も血縁が離れているので)
既に親の代から皇籍離脱を余儀なくされる血筋の遠さだ。以上。
▼追記
「女性自身」4月1日発売号の記事はYahoo!でも配信された。
https://news.yahoo.co.jp/articles/fb031c9ca2539459a4276f10457d9acc5ba28fb8【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/
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